一通りの説明を聞き
穏やかさを取り戻したシバ社長。


「理由はわかった。
 何もしていない事を前提に
 今回はお前を見逃す。
 だがな。
 木瀬にもそうだが
 本来なら許せる話ではない。
 だから次はないぞ」

「見逃してくださるんですか。
 木瀬様に出会ってから
 柴永様は随分と優しくなられましたね」


シバ社長は眠るイトカを抱き抱えると
ゆっくり立ち上がり
頭を下げる西園寺に背中を向けて
最後に言葉を掛けた。


「コイツのせいで俺は甘くなった。
 以前までならこんな裏切り行為は到底許さなかったが…
 今はコイツを憎めないし離れたいと思わないんだ。
 まったく呆れた話だ。
 俺は自分が思っている以上に…
 木瀬を、愛してしまっているんだからな」


自分に言い聞かせているのか
社長は優しい口調でそう言い残すと
イトカを抱いたままその場を後にする。


冷たい夜風が通り過ぎていく中
西園寺はシバ社長の後ろ姿を見つめ…


「満月が
 綺麗な今宵の
 愛の詩(うた)…か」


物思いに更けていた―――