だがこれではまるで
恋人に内緒で他の男と密会している事になる。


少し冷静になればわかる事だったが
イトカはそこまで深く考えておらず
とにかく”社長の為に”と
気持ちばかりが先走ってしまい
すれ違いからか
2人の間には見えない溝が出来てしまった―――



そんな中
宴の当日―――


19:00を回った頃
続々と各界の社長や御偉い様達が大勢集まり始める。


「うわ…いっぱいいる…」


薄水色の色留袖に着付けると
夜会の準備を手伝いながらも
人の多さに緊張が走る。


「木瀬様、大丈夫ですか?」


心配する西園寺に苦笑いを浮かべ
『大丈夫だと思います』と答えるが
格の違う大勢の前に出るのは初めての事。


「私がついていますので
 ご安心くださいね」

「西園寺さん…」


優しく微笑む西園寺は心強い存在。
だからイトカは気持ちが少し楽になる。


「そういえば…
 木瀬様はお酒は飲まれますか?」

「えっと…嗜む《たしなむ》程度です。
 それほど強くないので…」

「わかりました。
 ではあまり無理なさらず
 お断りしても良いですからね」


気に掛けてくれる西園寺は
本当に”王子”のよう。