「木瀬ッ!!」


入れ替わりでイトカに駆け寄ってきたのは
興奮気味のシバ社長。


「そんなに慌ててどうしたんです?」

「あの男に何もされなかったか!?」

「・・・はい?」


何も知らないイトカからしてみれば
急に『何かされなかったか』と聞かれても
むしろ『社長は何を言っているんだ』と
不信感でしかない。


「あの男は本当に危険なんだ!
 お前に何かするかもしれないッ!!」


あまりの必死さからか
辺り構わず大声で叫ぶ社長に
近くにいた人達から一気に注目を浴びた。


「ちょッ
 声が大きいですってッ」


その状況に恥ずかしくなったイトカは
冷静になるよう注意するも
先程の西園寺からの宣戦布告を聞いてしまった以上
社長が落ち着いていられるはずがなかった。


「だまされるな!
 アイツは、女を食い物にする非情な男なんだ!」

「食い物って…
 社長、言い方が酷いですよ。
 西園寺さんがそんな事をするはずないでしょ。
 変な事言ってないで仕事に戻りますよ」


シバ社長の意見を完全に無視し
ほぼ強制的に社長の背中を押しながら
逃げるようにこの場を後にした。

もちろん
花嫁修業の事は伝えていない―――