「英語できます」
が、自慢できる時代は、とーっくに終わってる。
そんなことは、わたしにだって、分かってる。
だから、何年か前から少しずつ、危機を感じてる。
「英語ができること」
は、いまじゃ普通だ。
英語プラス特別な知識がなきゃ、若いモンに食われちゃうって
ことも知ってる。
英語だけじゃなくて、中国語ができる人が重宝され始めてるの
も知ってる。

だから、どうしよう。
29歳のわたし。
入社7年目のわたし。
来年三十路なわたし。
英語以外はちんぷんかんぷんなわたし。
その英語も、本当は怪しいわたし。
柚木朝子なわたし。

わたしが勤める会社は、田舎では珍しく、千人規模の企業。
成績は、県内では優秀な方。
この会社に入社できたのは、ツイていた。
大学時代、海外に一年間留学していたという事実が、入社決定
に大きな役割を果たしたんだと思う。

その頃、まだこの会社には、英語を使って仕事ができる人が少
なかった。
そんな内情とは裏腹に、市場の目はどんどん海の向こう側へ移
っていく。
わたしの入社時期は、バブルはとっくに弾け終わっていたけど、
とにかく、
「英語がデキル人」
という明確な目標を持って、採用活動をしたそうだ。
だから、同期は技術者を除いて、九人が、名前に外国語とつく
大学卒である。