「ポスターの話題で持ちきりね」

あの時のポスターが仕上がって来た。唐沢浩一は出来上がりの良さに、一ノ瀬さんにもう一度モデルになれと、猛烈なアピールを掛けている。

「一ノ瀬さん、現役復帰しましょうよ」

事務所スタッフにも言われ、一ノ瀬さんはうんざりしていた。

約束通り、ポスターでモデルを務める筈だった女性は、唐沢浩一と仕事をすることが出来て、満足していた。

私と一ノ瀬さんは、しっくりときていた。

ぎくしゃくもしなければ、気を使うこともなかった。

ただ一つの欠点は、職場が一緒ということで、恋愛オープンな職場であっても、周りに気を使い、やりにくいと言うことだけだった。

休み明けの出勤日、瑞穂は私の顔を見るなり、泣き出した。

瑞穂とケンカをしてから私は休みを取ってしまった為に、瑞穂は自分を責めて大変だったと、渉から聞いた。

私は全ての連絡を絶っていた。哲也との思い出に浸りたかったのだ。次に進むために。

瑞穂は、私の顔を見て、本当に良かったとまた泣いた。

「この時は最高に恥ずかしくて大変だったけど、私にとって記念の作品になったかも」

「凄くきれい」

「私は、後ろ姿だけどね」

「いいじゃない、背中で女を語る。そんな感じよ」

ポスターに使われたのは、一ノ瀬さんが私に、

『もう一度、俺と恋愛を始めてみないか?』

と言ってきたところだ。

私の顔が少し見えてしまっているが、事務所のスタッフには分からないみたいで、ほっとしている。一ノ瀬さんの裏工作も功をそしているようだ。

唐沢浩一は、すべての写真を気に入ったらしく、この一枚を選んだあと、撮影した写真をアルバムにして一ノ瀬さんに渡していた。

「綺麗だった」

「背中よ」

そんなキザなセリフ、サラリという一ノ瀬さんが憎い。

「一ノ瀬さん、最高に素敵ね。カッコいい」

「そうね」

「謙遜しないわねえ」

「当たり前じゃない。カッコいいもん」

モデル時代の写真を見せてもらった。

ちゃんと本にして整理してあった。どれも本当に素敵で、唐沢浩一じゃなくてもモデルに戻って欲しいと要望されるのが、理解できた。