「ちょっと、どうしたのよ、黙って。何か話してよ。どうしたの呼び出して」

私は、渉に聞いた。

瑞穂は、しびれを切らしたのか、肘で渉を突いていた。

「あのさ、姉ちゃん」

「うん」

「俺たち、結婚することにした」

「……」

「……」

「……」

理解するまで相当な時間がかかった。目をしばたたかせて考える。結婚?

「は!?」

「驚くよね?」

瑞穂が言った。

私は言葉が出ずに、頷くしかなかった。

渉はまだ社会人になったばかり。月給だって、瑞穂よりも少ない。一国の大黒柱としてやっていけるのだろうか。

「美緒、私は年上で、渉は社会人になったばかり。愛だけじゃ生活できないことも分かってる。でも、私には渉しかいないの。渉はまだまだ子供の部分も抜けないけど、しっかりと私の目を見てプロポーズしてくれたの。だから私は渉を信じて付いて行く。賛成してくれる?」

「賛成も何も……もちろん賛成するわ、でも」

私の気がかりは瑞穂の両親が賛成してくれるかだ。まだまだ子供の渉に、大切な娘を預けてもいいのかと思うのが普通だ。それが心配だ。

「姉ちゃんの言いたいことは分かる。瑞穂の両親だよね」

「そうよ」

「ここに来る前にちゃんと挨拶してきた」

「あんた、挨拶できたの!?」

「ばかにすんなよ」

私の中の渉は、いつまでも幼いままだ。

指をしゃぶって泣いていた顔がすぐに思い浮かぶほどに。その渉が挨拶とは、大人になったようだ。目つきがめっきり男らしくなっていた。

「で、お父さんとお母さんには?」

「先に姉ちゃんに報告して、明日にでも言うつもりだよ」

「そう」

「同僚が家族になっちゃって、美緒は義理のお姉さんになるって、なんだか複雑」

「それはこっちのセリフ」

これから結婚式に向かって瑞穂は忙しくなるだろう。

ドレス選びに婚約指輪と結婚指輪。楽しいことばかりじゃないけど、きっと素敵な花嫁になるはず。

料理はすでにコース料理をオーダーしてあるらしく、順番に食事が運ばれて来た。

ここは私がお祝いで支払うべきか悩んだが、これから姉として援助する部分も出てくると睨み、遠慮なくごちそうしてもらった。