「休まなくちゃダメですよ。私達が頼りないからですね。もっとしっかりしないと」

「いや、桜庭も川奈もよくサポートしてくれている。俺が一人で抱え込みすぎなんだ。人に仕事を振るのも上司の役目なのにな、反省するよ」

「そんな、反省だなんて」

眠っているのに邪魔をしてしまった。ここで眠りたいほど、睡眠不足だったのに。

少し、暗い空気が流れてしまった。ふいにモデルのことを思い出して、一ノ瀬さんに聞く。

「あ、瑞穂が、ベッドタイムの男性モデル。どうなっているのかって。予定を組めないそうで……私もですけど、分からないと困ることが多くて……何かあったんですか? トラブルとか」

「……いや……」

何か言いにくそう。また問題でも起こったのかもしれない。

「いや、その……俺……なんだ、そのモデル」

「……」

手を頭に乗せて、参ったという一ノ瀬さん。すぐに理解が出来なくて、ずっと見てしまった。

「俺……って……? え!?」

やっと理解が出来た時、衝撃ともいえるほどびっくりして、私は腰を掛けていたベッドからずり落ちそうになった。

「あぶない」

一ノ瀬さんが、手を握っていた方の腕を引き、強い力で引き揚げた。

その反動で一ノ瀬さんに急接近してしまった。顔が近い。慌てるのも自意識過剰のような気がして、大人の対応をする。そう、落ち着いて、そっと離れる。

「すみません」

「……川奈には撮影まで黙っておきたかったが、あいつが予定を組んでいるとなれば、話さないといけないし。気が重いよ」

「ちゃんと口止めをしておきます」

「モデルが嫌なんじゃなくて、所属のモデルがいるのに、引退した俺がモデルをするのは統括部長としてはいかがなものかと。社長にも相談したんだが、唐沢さんをカメラマンに起用するには俺がモデルになるしかない。それが唐沢さんの条件だ。20周年という記念の舞台に、揉め事を起こしたくないからな」

「そうですね」

「そこのところを川奈にも説明して、口外しないようにと言っておいてくれ」

「わかりました。……一ノ瀬さんはやっぱりモデルだったんですね」

「……まあな」

照れているのか、モデルの過去が嫌だったような顔をした。

「コンポジでもいいから見てみたいです」

「もうないよ」

「一枚も? 仕事では? 何か残ってません? ありますよね?」

「いやに食いつくな」

「だって、見たいですから」

「……まあ、そのうちにな……桜庭だけに」

桜庭にだけ。そう言ったとき、一ノ瀬さんの私が私を見た。私もなぜかその視線を外せなかった。その意味が分からない。

一ノ瀬さんといると、私はなんだかとても落ち着く。鼓動は激しく打っているけど、体で感じるのは、穏やかな休日のような力の抜けた感じ。

どれくらい時間がたったのか分からないけど、お互いに話はしなかった。ただこうして座っているだけで良かった。