「日高部長、着きましたよ。
起きてください...」

何度か声をかけても

彼は寝息をたてて寝ていた。

そんな私達を見かねたのか

{悪いけど降りるなら降りてくれないかい?}

とタクシーの運転手は声をかけてきた。

私は部長を

家まで送っていこうと決心した。

ーピンポーンー

あれ、返事がない。

誰もいないのかな?

ーピンポーンー

何度かインターホンを鳴らしたが

誰かがいる気配はなかった。

「ごめんなさい、鍵をとりますね」

私はそっと彼の鞄から鍵を取った。

ーカチャッー

もう12時前だというのに、

彼の家には誰もいなかった。

ただモデルルームの様な

生活感のない部屋が広がっていた。

私は彼の肩を抱き

ソファーまで運んでいった。

彼も家まで送ったし、

少し悲しいけどもうお暇しようかな...

と考えていた時

ギュッ
 
彼の骨ばった手が、

ずっと触れたかった手に

抱きしめられていた。

彼の身体は暖かく

心臓の音も触れあった身体から

聞こえてきた。

ギュギュッ

彼の腕は、

私がいるかを確かめるかの様に 

もっと強く抱きしめた。

彼の暖かい吐息が耳にかかり

心臓は跳び跳ねていた。

その時1枚の写真が目に映った。

その写真は

彼の奥さんとの、

結婚式での姿だった。