ベルガモの棘

13時まではもうすぐだった。

何を言われるのか、
全く予想もつかない。

でも、

彼が私を資料室に呼んだのは

きっと理由があるから。

私的な理由ではないのだろう。

そう考えるしか

鼓動の早まりを治める方法はなかった。

資料室前、

恐る恐る扉を開いた。

すると、

気付けば

彼の暖かい腕の中に包まれていた。

『昨日は...傷つけてごめんな』

彼は今にも泣きそうにそう言った。

泣きそうになる彼は

守ってあげたくなるような  

愛しさを思い出させるような

私を離さないような魅力があった。

『でも、俺には妻がいる...
だから昨日のはやっぱり忘れてくれ...』

その言葉を聞いたとき

私は一気に底まで

突き落とされた気分だった。

気付けば咄嗟に言っていた。

「...なら大人の関係になりませんか?」

『...』

「お互いが求め合う時だけの
ただそれだけの関係です。」

私はきっとこの時どうかしていた。

"ただ彼を離したくない"

"私だけを見て欲しい"

その欲望が

進んでは行けない棘の道に

絡まりかけているとも知らずに...