—伊沢くんとビールを飲みながら、当たり障りのない会話を5分ほどしたろうか。
意を決したような表情で、伊沢くんが口を開いた。
「...俺、昔、すげー嫌なヤツだったんです」
彼は苦しそうな表情で、続けた。
「みやっちと同じクラスだった小学生の頃、家がゴタゴタしてたこともあって、大分荒んでたんですけど。
俺、みやっちも含めて何人かに酷く当たってて。
みやっちにも、最低な事をしました」
「…具体的に聞いても?」
一瞬、腹が立ったのだけど。
こんな表情で告白する彼に、内容を聞くべきだと思い直す。
伊沢くんは一瞬、視線を足元に落として、すぐ俺を真っ直ぐに見た。
「みやっちが好きだった男の前で、みやっちもいたのに、酷く貶しました。
……後悔しても、しきれない。
小学校を卒業して、転校しても、ずっとずっと心に引っかかっていました。
成長するにつれて、自分のしたことの酷さを理解してきて、更に後悔は大きくなっていました。
みやっちは、クラスの皆に優しかったし、いいヤツだったのに。俺はなんて馬鹿なんだって。
もしも会うことがあったら、絶対に謝ろうと思っていて、でも期待はしていませんでした。
一生、後悔を抱えたまま生きるのが罰なんだと、ずっと思っていました」
そこで、彼は持っていたビールを口に含んだ。
俺も口を付けたが、温くなっていて不味い。
それを理由に、お互い顔を顰めた。
彼に腹は立つけど、今は都と、とてもいい友人関係を築いているのは分かっている。
俺は目線で、続きを促した。
「でも、大学2回生の時、友人を介して、みやっちと再会出来た。
俺は、友達の前だったけど、すぐに謝ったんです。
もう、こんな機会は無いかもしれないから。
みやっちは、笑って許してくれました。
『そんな昔のこと、覚えてないよ』って言って。
でもすぐ、それは嘘だと分かった。
その後、何回も会っているうちに、男との距離感がおかしいことに気がついたんです」



