『どうしたの?』
『いや』
『何?気になるよ』
『…昨日、高崎さんに質問されたんだ。「お前が逆の立場だったらどうする?」って』
『逆って、庶務は基本、出張とか無いのに?』
『仮に…という話らしい。だから一応、俺も想像してみた。倉沢と簑島が出張で、もし一緒の部屋で一晩過ごしてたとしたら…と』

現実にはあり得ない想像をしたらしい関君は、少しの間のあと、静かに続ける。

『…お前が”何も無かった”って言っても、俺は信じないかもしれない』

ボソッと拗ねるように言う関君が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。

『何だよ』
『だって、矛盾してる』
『だから、悪かったって謝っただろ』

あえて窓の外に顔を背け、こちらから表情が見えないように片手で髪をかき上げるも、その声と仕草で、なんとなく関君が照れているのが伝わってくる。

なんだ、そういうことか。

関君も私も、きっと同じ気持ちなのかもしれない。

『関君』
『なんだ』
『私達、もっとたくさん話そう』
『…いきなり、突拍子もないな』
『だって、私の知らない関君が多すぎる。もっと関君のこと知りたいし、私のことだって知ってほしいから』