『当たり前でしょ、誰のせいでこうなってると思ってるのよ』
『うっ…それ言うか?』
『愚痴ってる時間が有るなら、関さん見習って、黙って手を動かしなさいよ』
『わ、わかってるよ』

正論で説き伏せられた未来君は、渋々ながらも再び目の前のパソコンに向き合う。

自前の白いワイシャツを関君に借りた紺地のポロシャツに着替え、いつもより数段ラフな感じになった未来君は、到底社会に出た会社員には見えず、どう見ても大学生…いや見ようによっては高校生にも見える。

その未来君の同期である落合さんは、向かい側の席で、銀縁の眼鏡を時々外しては、目頭を抑えたり、外した眼鏡を付属のクリーナーで磨いてみたりと、彼女にしてはどことなく落ち着かない。

この時間帯になると、誰もがこんな風に集中が途切れる瞬間が有る中、こちら側に背を向け、ひたすら黙々と入力し続ける関君。

この方が集中できるからと、長机二つを繋げて、部屋の一角に特設で作った専用スぺースには、中央に鎮座したパソコンの周りに、所狭しと扇状に書類や資料が広がってる。

敢えて執務室内の自席ではなく、会議室を手配したのは、余計な雑音に悩まされることなく作業に没頭するため。

予想通り、もの凄いスピードで資料がデータ化されていく様は、やはり流石と言わざる得ない。

『集中力、半端ねぇな…』

隣で作業をしていた未来君が、小さく独り言のように呟く。