どうしよう、もし彼の身に何かあったら…。

不安が高まり、とにかくもう一度連絡してみようと、受話器を上げると

『倉沢ちゃん!あれ…』

澤井さんが、執務室の入口を指さし、自然とそちらに視線が注がれた。

向けた視線の先には、走ってきたせいか、入口の柱に手を突き、乱れた呼吸を整える、未来君の姿。

『未来君!?』

よほど動き回ったのか、汗でワイシャツが水をかぶったように濡れ、しっとりと肌に張り付いている。

『良かった。何かあったんじゃないかって心配したよ』

尋常じゃない様子に、駆け寄り声をかけると、私の姿を見るなり、未来君は額の汗も拭わず、90度を超えるほどに頭を下げた。

『朱音さん、すみませんっ』
『ど、どうしたの?』
『実は…須賀さんに頼まれてた会議資料、昨日自宅で最後の確認したんですけど、そのデータを入れたUSBを、通勤途中に落としてしまって…』
『えっ、ちょっと待って…落としたって』
『落とした場所はわかってるんです。地元の駅で、電車に乗る直前にUSBを自宅に忘れたような気がして、一瞬…ほんの一瞬だけ鞄から取り出して確認してる時、走ってきた誰かとぶつかって、その…その反動で、線路に…』

苦しそうな表情で、絞り出すように話す未来君。