視線を上げるとちょうど窓際の席の未来君の姿が目に入り、彼にしては珍しく、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

『未来君』
『え…あっ!はい、わっ』

声をかけたのが私だとわかると慌てて振り向き、その拍子にデスク上にあったペン立てを倒してしまう。

『ごめん、私が急に話しかけたからだね』
『いえ、僕がちょっと、意識飛んでたんで…』

散らばったペンや定規を集めながら、答えるその声にいつもの覇気がないように感じる。

『…何かあった?』
『はい?』
『何だか、いつもの元気が無いようだけど…』

そう聞けば、すぐに満面の笑顔を見せて『全然、元気ですよ』と未来君。

嘘をついている感じも無く、さっきの表情は、単に私の気のせいだったのだろうか。

『朱音さんこそ、僕に何か用事ですか?』
『あ、うん。須賀君から頼まれてた会議資料作り、どんな感じかな?って』
『順調ですよ。打ち込みはほとんど終わってますし』
『そっか、それなら大丈夫そうだね』
『どうかしたんですか?』
『実は今朝、須賀君からメール来てて、現地でのイベントが一日伸びて火曜日までになったらしいの。翌日には撤収して戻ってくるみたいなんだけど、できれば木曜日は振休取りたいからって…』

そこまで言えば、勘の良い未来君は先を読む。

『会議資料、金曜日の朝までに、部数分用意しておくってことですね』
『うん、出来そう?あ、もちろん私も手伝うけど』
『お任せください。僕もやるときはやりますよ!』

心強く笑顔でガッツポーズを見せる後輩君の成長ぶりに、サポートする身としては、感慨深い想いになる。

きっと関君も、落合さんに対して、こういう想いなのかもしれない。

変な誤解をして、落合さんに嫉妬しそうになっていた(あくまでもまだ未遂!)なんて、恥ずかしいにも程がある。


”来週は、必ずお前との時間作る”


まぁ…おかげで、関君のあんな熱い眼差しを見ることできたけど…。

『朱音さんの方は、何か良いことあったんですか?』
『ん?』
『顔、にやついてますよ?』

訝しそうな目で見上げる、未来君の後ろに真っ青な快晴の空。

『フフ…何でもないよ』

かすかな緊張と淡い期待が胸に広がり、恋愛初心者の私には、それを上手に隠す術さえ知らずに、駄々洩れてしまう。