『すみません、ダメでしたらすぐ席を…』

言いながら、広げていたノートパソコンを閉じようとするので、慌てて引き止める。

『あっ大丈夫!全然。全然ここでいいよっ、っていうか、私もたまにここで仕事することあるし』
『…はぁ』
『あれだよね、ちょっと場所変えるだけで、気分転換にもなるし、仕事もはかどるよね』

下手過ぎる動揺の隠し方に、我ながら情けない限りだった。

落合さんは、銀縁の眼鏡を手の甲で軽く押し上げると、『ではこのまま続けさせていただきます』と、また背を向け、再びパソコンを前に作業をし始める。

カタカタ…カタカタ…

直ぐに、癖の無い流れるようなキーボードを叩く音が流れ出す。

ついその単調な音を聞きながら、本来ここに来た目的も忘れ、ジッとその横顔を眺めてしまう。

考えてみたら、ここまでの近さで、彼女と二人きりになるのは初めてだった。

スッと鼻筋の通った横顔に、素肌のように透き通る肌は、女性の私でも触れたくなるほど白く、きめ細やか。

今はスーツの上着を着ていない彼女の背中は、白いブラウスの上からも女性らしいフォルムが伝わり、スツールに座った姿勢からくびれたウエストの細さが強調され、そのスタイルの良さが服の上からも、隠しきれずにいた。


”あの二人が一緒にいると、こう…なんかビジュアル的にしっくりくるっていうか…”


紗季の言った言葉が脳裏をよぎる。

残念なことに、確かに160㎝にも満たない平凡顔の自分より、クールで大人っぽい落合さんの方が数倍も関君に似合っているのは違いなく、彼女に備わっている高い仕事のスキルと共にその差に愕然としてしまう。