『何よ?』
『噂をすれば、関君からだ…仕事中に珍しい』
『油打ってないで、早く仕事戻れってことだったりして』
『うっ…そうかも』

業務上の緊急的なメッセージかもしれないからと、自然と一緒に見る形になった紗季の目の前で、届いたメッセージを開く。


”週末、仕事が入った。予定を先送りしてもらえると助かる”


それは、単に用件だけのもの。

絵文字やスタンプなんて、一つも無いのが関君らしい。

『センスのかけらもないメッセージね』
『そう?』

隣で見ていた紗季が、呆れた口調で言う。

『恋人に送るメッセージなんだから、もう少し甘くても良くない?しかも、ドタキャンの癖に、謝罪の言葉一つないし』
『甘いメッセージがどんなのか分からないけど、これはこれで関君の優しさ感じられるよ』
『は?この文章のどこに優しさが?』
『ほらここ”先送り”って書いてあるでしょ。これって会うこと自体をやめちゃう気持ちは無いってことだし、そうしてもらえたら”助かる”って書いてあるってことは、関君も楽しみにしてくれてたのかもしれないもの』
『…』

相槌が無いことに気づき、紗季を見れば、今度は愁いを帯びた目で、私を見つめてる。

『何よ?その目』
『ううん…何だか、朱音が不憫に思えてね』

紗季は紙コップを近くのごみ箱に捨てると、今度は紗季の方にリアルな業務上の呼び出しがかかり、ぶつくさ言いながらも、仕事に戻っていく。

紗季が去った後、もう一度関君からのメッセージを開き、その短い文章に、ただの同僚だった頃には無い特別なものを感じて、単純にも嬉しくなっている自分に気付く。

紗季が知ったら、きっと呆れるに決まってる。

『…手繋ぎデート、先送りか…』

小さく溜息を吐きながら、”了解です”とだけ書かれた、可愛すぎない程度のスタンプを送信した。