『落合、ちょっといいか』
『はい』

関君が、ちょうど自分の斜め後ろに席を構える落合さんを呼べば、彼女は振り向くだけではなく、わざわざ立ち上がって、関君の隣に立つ。

『営業3課が出してきた収支計画書の件だが、明日の会議までに間に合いそうか?』
『はい、先ほど関さんの個人フォルダーに入れておきました』
『随分早いな』
『ついでに作成途中でいくつか問題点がありそうでしたので、その改善策も想定して入れてあります』
『ああ、それは助かる。後で確認しょう』
『それと、先日尾崎課長から依頼を受けた件は、経理に確認して自分なりに経緯をまとめましたが…関さん、ご覧になりますか?』

落合さんは持っていたA4サイズの用紙を差し出すと、関君は何故かそのまま受け取らず、一瞬の間の後、彼女を見上げる。

『落合が見て、大きな問題は?』
『特にありません、単純な計算ミスのようです』
『そうか…なら、そのまま課長に報告してくれて構わない』
『え…』
『以上だ』

そう言うと椅子の向きを戻しながら『仕事に戻っていいぞ』と言い放つ関君に、戸惑う表情を見せる落合さん。

『あの…目を通さなくても良いのですか?』

幾分不安そうな落合さんの声に、もう一度彼女の方に半身を向け、視線を上げる。