カサッと足元の草を踏む音がして、関君が一歩こちらに近づく気配がした。

『そんな訳ないだろ』

低く和らかな声でそう呟くと、関君の手が、私の髪に触れる。

その瞬間ビクリと反応してしまうのは、無意識の所業。

『いい加減、慣れてくれ…我慢にも限度がある』

関君の困ったような、それでいて苦しそうな声音に、精一杯の勇気を振り絞り、今度は自ら関君に歩み寄り、その胸に身を預けてみた。

一瞬私の行動に躊躇いを見せるも、嫌じゃないことが伝わったのか、そのまま受け止めてくれる。

白いシャツから漏れる鼓動は、私と同じでずっと早音を打ってる。

もう、言葉では言い表せないほどの”好き”の感情が溢れて、この想いをどう伝えたら良いのか分からない。

『…朱音』

私の名を呼ぶ甘く優しい声がすぐそばで聞こえ、抗えない力に導かれるように、ゆっくり顔を上げると、私を見つめる関君と視線が合う。

いつもと違う関君の熱い眼差しから、もう視線を逸らせない。

途絶えることない胸の鼓動が、互いにこの先の未来を予知する。


ヒュ~……


唐突に暗闇を割くように、長く甲高い打ち上げ音と共に、海岸から夜空に、一光が走るも、もう意識は目の前の関君のことで一杯になる。

『…悪いな。ラストの花火は見せられそうにない』

身をかがめ近づく関君の気配に、ゆっくりと目を閉じた。

複数が一斉に弾ける、火薬玉の音。

目を閉じていても眩しい程、光の中にいるのがわかる。

いくつもの花火の連打の中、触れた唇は想像していたよりも熱く柔らかな感触。

恥ずかしさのあまり一瞬触れて、下を向きそうになるも、関君がそうさせてはくれない。

『…まだだ』

足りない…とばかりに、顎を掬われ、もう一度唇を奪われる。

時差で聞こえる連弾の音と、遠く海岸から湧き上がる歓声。

ずっと不安だった関君の想いを知った、夏の終わり。

交際半年経って、初めて両想いになれた気がした。