海沿いの街で開かれた祭りは、地元や県内外から、夏の終わりを惜しむ人たちで溢れかええる県下最大級のイベントの一つ。

流石にメイン会場がある駅は混雑しているだろうからと、待ち合わせは2つほど前にある駅のプラットホーム。

比較的時間に余裕を持たせて目的の駅に到着するも、降りる前に車窓から見たホームには、すでに関君の姿がチラリと見えた。

駅に到着しドアが開くと同時に、思っていたより多くの人が押し出され、その流れに乗ってホームに降り立った途端、かすかに香る潮の香り。

そういえば、電車の窓からも、時々海が見え隠れしていたっけ。

乗り入れする乗客の波がひとしきり掃けた後、関君がいるホームに向かう。

関君は中央の出入口の反対側、ホームの一番端にある木製の柱にもたれ、音楽でも聴いているのか、イヤホンをしたまま暮れゆく空をじっと眺めていた。

なんてことない白シャツにジーンズという至ってシンプルないでたちにも拘らず、趣のある古い駅のホームに佇む姿は、それだけでノスタルジックな雰囲気に溶け込んでいて、つい声もかけずに魅入ってしまう。

”写真…撮っちゃダメかな?”

そのあまりに美しい立ち姿に、切り取ってしまいたい衝動に駆られ、ほぼ無意識にスマホを手にし、そっとカメラ機能を立ち上げ被写体に向ければ、フレーム内に映っている人物が、こちらに気づく。

『朱音』

名を呼ばれ、慌ててスマホを後ろに隠すも、完全にバレている。

『今、何しようとしてた?』
『え…えっと、夕暮れがきれいだったから、景色…撮ろうかなって?』
『白々しい嘘を吐くな』

呆れた顔でゆっくり近づいてくる関君に、心拍数が跳ね上がる。