『おう関!良いところに来た。今、未来君に聞いたよ。俺の会議資料、お前も手伝ってくれたんだってな』
『ああ…少しな』
『関の監修なら、あの出来も納得だ』
『言っておくが、俺は簑島がまとめたものをただ打ち込んだだけだ。大したことはしていない。それより、良いのか?さっき上(営業部)で、三上課長がお前のこと探してたぞ』
『あ、いけね。会議の報告まだしてなかった』

須賀君は、右腕にした時計をチラリとみて時刻を確認するも、さして慌てる様子も無く、独り言のようにつぶやいた。

『上司への報告もせずにこっち来たのか』
『当然だろ。会議の成功は俺だけの手柄じゃないからさ』
『そういうとこ、お前らしいな』
『律儀だと言ってくれ』

須賀君は、日に焼けた血色の良い顔に、真っ白な歯を見せてにやりと笑う。

とはいえ、流石にそろそろ戻らなきゃなと、須賀君はもう一度私達にお礼を言うと、”この礼は近いうちに必ずするから”と言い残して、上司の待つ自課に戻って行った。

『忙しない奴だな』
『関さん』

須賀君の姿がフロアから見えなくなったところで、未来君が向かい側の席に戻る関君に問いかけた。

『どうしてさっき、あんな”嘘”言ったんですか?…”少し”だなんて、データ化のほとんどは関さんが入力したようなものなのに』
『別に嘘を吐いた訳じゃない。お前が須賀の資料を精査してまとめた時点で、9割方の仕事は終わってる。俺らは残りの1割を手助けしたに過ぎない』

自席にたどり着いた関君は、未来君の方を見ることもなく続ける。

『あの資料は良くまとめられてた。落合は知らないが、俺は簑島のあの資料が無ければ、手助けなどしなかったかもしれない。…つまり、そういうことだ』