友人の亜由奈に誘われ参加した、最近人気の街コン。
『ハイスペック男子 対 本気で恋したい女子』というふざけたネーミングに初めは秒で断った。

「ハイスペック男子ってのは間違いないらしいの!容姿はあれだけど、とにかく金が有り余ってる男が来るんだよ〜!理子の理想男子じゃん」

バイト帰りを待ち伏せしていた亜由奈はスマートフォンの画面を見せながら迫ってきた。

「ねぇ、行こうよ〜!恋愛は別にしなくてもいいんでしょ?私は本気で恋愛したい、理子は金持ち男子に出会いたい。うん!オッケー!成立!お互いの条件を見事にクリアしてるの!すごくない?それにそれに!女子は参加費1,000円だよ!おトク!」

夜風に靡く亜由奈の黒髪は、ツヤやかと輝いていた。
高級なシャンプーとトリートメントと、希少で良い香りのヘアオイルを使っているらしい。
髪だけは時間とお金を費やしているのだと照れたように笑っていた彼女ともう5年の付き合いになる。

「私にとっては1,000円でも高く感じるんだけど」

ボブヘアの私の髪は枝毛が顔を出していた。
余裕とお金の無さにもう半年も美容院にも行っていない。

「1,000円、飲み食べ放題。フリータイムあり」

秒で「行く」と応えるまでに悩む必要などなかった。食費が浮く。あわよくば相手さえ見つければ、しばらくは食費+洋服代も浮くのではないか。

「理子ならそう言うと思った!私がコーディネートしてあげるから、当日は遅れずに来てよ」

亜由奈は嬉しそうにハグをし、理子の手に固い何かを持たせて「しっかり寝ること、グッナーイ」と言って高いビルが並ぶ街のほうへ軽やかに消えていった。

理子の手には栄養ドリンクが1本収まっていた。
残暑が過ぎ去った夜風は時折切ないほどに冷たく、生温く首を撫でていった。