恋愛経験はそれなり積んだ方だと思う。
傷つく恋もしたし、幸せな時間だって味わった。
容姿を気にしてみたり、駆け引きしてみたり、スペック高い男性を狙ってみたり。
それが全部、全部全部無駄だと気づいた結果、たどり着いたのは、金だ。マネーだ。金貨だ。札束だ。
金は裏切らない。銀行に行けば暗証番号を要求され、必要な額を引き出し、自分の手元に形として残る。
政治家や教師や会社の偉い役員たちが何をしてくれるというのだ。

努力が実り、しっかり働き、給料が手に入る。シンプルでわかりやすくて、誤魔化しのないものだと思う。

 「理子ちゃん、よく食べるねぇ」

テーブルを挟んで向かいに座る背の低い男はぎこちなく笑う。
オールバックが不釣り合いで、細い眉に、細い目、色白の肌にピンクの薄い唇からぬるりと自分の名前が出てきて鳥肌が立った。

「よく言われます〜。健康的でしょ?」

手にしていた骨付き肉にキスを落として、目の前の男に媚びてみる。

相手は理子の唇に見惚れ、一瞬鼻の下が伸びそうになるが、あくまでも紳士を演じ、薄く笑みを浮かべると首を縦に振った。

「とても健康的で素敵だよ。理子ちゃんの食べっぷりについつい見惚れてしまうよ」

「灰田さん、理子と付き合うことになったら大変ですよ〜。食費だけでお財布が空になるかも」

亜由奈が隣からスッと手を伸ばし、灰田の皿からケーキを奪って理子の口へと運ぶ。
灰田の皿に置かれた一口サイズのケーキたちは先ほどから全く手をつけられていない。

「僕は現金を持ち歩かなくてね。空と言えばこの財布は飾りのようなものかもしれないな」

下品なロゴマークが隙間なく並んだブランド財布を懐から出し、灰田は仰ぐような仕草をした。
その飾りの財布ですら、私は喉から手、心臓すら出るほど欲しいと言うのに。憎たらしい。どうせ親のコネで入った会社に勤めているくせに。

「その飾りとお揃いのもの、私は欲しいんだけどな」

首を傾げながら、口の中に放り込まれたケーキを潰していく。
生クリームが甘ったるい。女性の参加費は1,000円と言うだけあって料理の味はどれもそこそこだ。