「マリア!やめろ、やめるんだっ!!」

「ぅっ、ゔ、」

「マリアッ!!!!」


ジェラルドは間に合わなかった。所用で街に出掛けた帰り道、パリの裏通りで1人の女が薬屋から出てくるのを見かけた。あまりの変わりようにはじめは気が付かなかったがそれはジェラルドがかつて愛し将来を夢見たただ1人の人、マリアだった。思わず声を掛けようとして一歩出るが自分にその資格が無いことを思い出し鎮痛な面持ちで彼女を見守る。

セーヌ川の辺りでぼんやりしているマリアはふと手にしていた薬草を見つめぶつぶつと何かを呟きながら口に押し込んだ。

(何を口にしたのだ…?)

と、次の瞬間。

マリアは喉を掻き毟るようにしてその場に倒れ込んだ。

「マリアッ!!」

思わず声を上げてジェラルドは駆け寄りはっとした。
彼女が手にしている残りの薬草が目に入る、いや薬草ではなかった。それは

「ジキタリスの花、何故!?」

毒草である。

「マリア吐け、吐き出すんだ!」

「…ぅ、うぁあ、あジェラルド、ジェラルド…!」

「すまない、私が全て悪いんだ、悪かった、頼む死なないでくれお願いだ!マリア!!」


腕の中でマリアが苦しそうに呻き声を上げる。騒ぎを聞きつけた周りの人々が何事かと集まりはじめていた。その中から医者だと名乗る男が現れ指示を出しながらマリアを運んでいく。ジェラルドは全身を冷たい汗に浸しながら神に祈った。

マリア、許してくれ、神よ彼女をお救いください

と。