ハックツールが、細かい黒い粒子となって、そのノードに集まっていく。

 侵入を開始してから三秒が過ぎた。

 リアルでは、スタングレネードの閃光の中、嵐がサンディ達の方に向いていた。

 あまり時間は残されていない。

 このタイミングで、身体ハックをしておかないと、この少女の姿をした化け物は、難なく、サンディたちの仕掛けを避けてしまうだろう。

 ハックツールの黒い粒子がノードの情報圧を侵食し、プロトコルを取り込もうとする。

 ハックツールが侵食していくにつれ、プロトコル解析が進む。

 どうやら、このノードに集中している情報圧の正体は、記憶の流れのようだった。

 だとすれば、身体操作デバイスより視聴覚デバイスのハックツールの方が相性はいいはずだ。

 即座に、視聴覚デバイスハックにリソースを振り分ける。

 プロトコル解析がほぼ終了。

 その時をもって、ノードが少年とバイパスしているラインを少年から、佐織が用意した身体モデルに移し変え、そこからもうひとつの身体ネットワークに入り込んだ。

 情報圧が霧散し、そのノードが変質する。

 ハック用の身体モデルが、情報圧を吸収し、そのノードをこちら側の侵入口に作り変えてしまう。

 後は、誤情報を全身に送ってしまえば、良いだけだった。

 それだけで、少女の身体はパニックを起こす。

 最後の一秒。

 佐織は・・・

「こんな所にいたのか、この時代の人脈変換は変わっているな」

 いきなり、声が聞こえた。

 実際には声ではなく情報の瞬きだ。

「誰なの、ここは私の情報空間よ」

「情報空間というのか。面白いものを作るものだな」

「誰だかわからないけど、まあいいわ。これでおしまい」

 佐織は誤情報を少女の身体ネットワークに流し込んだ。

「なるほど、完全な人脈変換ではなく、単純な誤動作を狙ったものか」

「あら、ずいぶん余裕じゃない」

「やり方がわかれば、対処は出来る。こんな風にな」

 声から、何かかが弾けた。

 膨大な情報圧が、佐織を襲う。

 その情報圧に耐え切れず、医療用インプラント端末が弾けた。

 同時に、少女とのラインが切れ、佐織の意識はショックで暗転した。