これを受け入れてしまったら、僕が僕でなくなってしまう。

 これは、嵐の記憶だ。

 麗輝は、同期した記憶の波に抵抗しながら、思考した。

 なぜ、嵐の記憶が自分の中に流れてきているのか。

 その問いに答えるように、流れ込んできた記憶が浮かび上がる。

 魔道強化兵はその強力な力を制御する為に、外部に主となる人格を必要とする。その主を守る為に、力を使うと言う形で、魔道強化兵は能力を発揮する。

 人脈交換によって遺伝適合した個体に人格転写を行い、魔道強化兵の主としてふさわしい知識と人格を作り出す。

「つまりは私が出来上がる」

 記憶と共に、その声が湧き上がってきた。

「お前は誰だ」

 麗輝は、穏やかな記憶の奔流の中、その声に誰何した。

「私は新しいお前だ」

「どういうことだ」

「その知識は既にある筈だ。私が嵐にふさわしいお前となる」

「僕はお前なんか要らない」

「そうは行かない。嵐には私が必要なのだ。その為に、嵐の副脳記憶野に圧縮収納されていたのだから」

「遺伝適合さえ確認出来れば、嵐は僕を守る為に起動出来る。実際そうだった。僕がお前である必要は無いはずだ」

 言いながら、麗輝は自分がなぜそんな事を知っているのか驚いた。

 つまり、記憶は既に、植えられているのだ。

 簡単に引き出せるほどに。