暗い、どこまでも続く暖かい闇の中をゆっくりと落ちて行く感覚が続いていた。

 麗輝は自分が今どうなっているのかをゆっくりと認識し始めていた。

 あのホールで、背中から撃たれ、意識が暗くなる寸前、柱の少女、嵐が微笑み返してきた。

 そのまま、彼は今の暖かい闇の中を落ちて行った。

 貫通した胸の傷からは、不思議な事に、喪失感よりも充実感に満たされていた。

 そこから、何かが繋がって、じんわりとした暖かさが広がっていた。

 そう、まるで、へその緒に繋がれた胎児が母親の子宮内で羊水に満たされて眠っているように。

 外界からの感覚は途切れ、胸の傷の暖かさだけが、自分の身体を認識出来る唯一の感覚だった。

 その傷口から、何かが、湧き上がってくる。

 断片的なイメージが、ゆっくりと麗輝の感覚を通り過ぎて行った。

 揺らぐ大気、震える大地。雷が雨のように降り注ぎ、木が街が人が燃え盛る。

 大地は引き千切られ、地脈が寸断され、瞬く間に氷海に飲み込まれて行く。

 これは、何のイメージなんだろう・・・

 麗輝は暖かい闇の中で、膨大なイメージの記憶に翻弄されながら思った。

 それに応えるように、記憶が同期する。

 麗輝の耳に囁くように、記憶が告げる。

 決して奴らの事を許してはならない。

 地脈に守られし、我ら北極大陸共同体は、この日、二つの大洋それぞれの敵対勢力による仮初めの同盟によって滅び去った事を・・・

 そして、お前こそが我々が作り上げた究極の天級魔道強化兵として、今こそ報復攻撃を!

 強迫観念のようなメッセージが、麗輝の頭の中へ刻み込もうと、入り込んでくる。

 麗輝は、その柔らかく容赦のない記憶の侵入に、必死に抵抗した。