ザッハは、目標がつんのめるようにしてもたれ掛かった血塗れの少女のレリーフがうつむいたのに反応して、トリガーを引いていた。

「ザッハ!撃つな」

 フレシット弾が軽い音を立てて発射される音を聞き、突入してきていたサンディは、銃を肩付けしたまま次弾を撃とうとしているザッハを制止した。

 ホールの様子を画像データで知ったチーフから、目標確保後の発砲を禁じる指示が最優先事項として入ったからだった。

 ザッハの端末にも入っているはずだが、ザッハの反射的な行動には間に合わなかったようだ。

 しかし、サンディの制止でトリガーこそ引かなかったが、ザッハは銃の構えを解かなかった。

 確かに、フレシットは少女の頭に当たったはずなのに、その手前で何かに弾かれる様にして外れたのだ。

 キリングマシーンと化していたザッハの意識に恐怖が芽生えた。

「サンディ、チーフには悪いが、あいつはやばいぜ。早いとこ始末するか、逃げた方がいい」

 そう言いながら、ザッハはマガジンを第二層に切り替える。

 落盤を恐れて使用しなかった炸裂弾だ。更にセミオートからフルにセレクトする。

 その間、ゆっくりとした動作で少女、嵐は麗輝を抱き抱えた。

 いつ壁から両手を抜いたのかじっと見ていたザッハですら気が付かなかった。

「何言ってるの、ザッハ。銃を下ろしなさい。命令違反よ。判ってるの?」

 サンディは銃口をザッハに向ける。

 重度の命令違反は即銃殺だった。

「判ってないのはあんただ、サンディ」

 そう言ってザッハはトリガーを引き絞った。

 ホールに連射音と一発の銃声が響いた。