俺の宝物は、お前の笑顔。


翌日、あたしが教室に入ると高畑くんは本を読んでいた。



「おはよう……」



あたしは試しに微笑んで挨拶をしてみたけれど、彼は何も返さない。


まーったく。
挨拶は大事なことだと、お母さんや先生に教えてもらわなかったのかね。



「ん?」



本を読むのをやめて、高畑くんはあたしと目を合わせた。



「何見てんの?」



「『おはよう』って言ったけど返さなかったから、聞こえなかったのかなって思って」



「ああ、俺にしてたのね。てっきり友達にしてたのかと思った」



「どうして?」



「お前、仲いい友達がいるんじゃねぇの?」



仲いい友達……きっと愛菜のことを言っているんだね。
愛菜なら、まだ教室にいないんだけど。



「い、いるけど……」



「親しくないやつに挨拶するんだね、お前」



変なことをしているようなことを言われた感じがして、あたしはカッとなった。



「挨拶は基本中の基本でしょ。あたしは小学校の頃も中学校の頃も、クラスの子はみんな友達だと思ってたから誰とでも挨拶してた。他の子だってみんな仲良くしてて挨拶してたよ」



そう、小学生の頃も中学生の頃も誰かが教室に入るとみんな「おはよう」と言ってて、帰る時もすれ違えば「明日ねー!」と言っていた。


男女問わず、挨拶をしちゃいけないなんて決まりはないはずだ。
というか、挨拶をするかしないかでは、したほうがいいに決まっている。



「ふーん」



興味なさそうに彼は、本をまた読みはじめた。



「……なんかおかしいの?」