「袖川さん!」
気がつけば、あたしは袖川さんを追いかけていた。
目の前では、彼女のふんわりとしたツインテールが空気にぶつかって、バサバサと動いている。
「袖川さん、待って! 待ってよ!」
どんなにあたしが走り続けても、袖川さんに追いつけない。
「……ついてこないで!」
あたしの耳に飛び込んできたのは、涙を含んだ、怒鳴り声だった。
「袖川さん!」
「うるっさいなぁ!! あたし、これでも、これでも……!」
あたしの呼びかけに、袖川さんは鋭く遮った。
……違う。
あの時と全然違う。
あの時は、すぐにでも男子を虜にしちゃうんじゃないか、と思うくらいの可愛い笑顔をしていた。
体育祭の時とも、声優イベントの時とも、全然違う。
真っ赤な顔をして、涙の膜が目に張られている。
……あっ、そこにも。
マスカラをつけた、クリンとしたまつ毛にも小さな小さな宝石のような涙が縁取られていた。



