嫌な予感がした私は読んでいた本を置いて彼の方へ近づいた。
課題がどこまですすんでいるのか確認しようと思って。
「あ、音葉さん動かないで」
「へ?」
「あともう少しで完成だから」
「なにやってるの?」
ちょっと嫌な予感がしたので、彼の手元を覗き込む。
すると、彼はノートに私の姿を描きこんでいたみたいでちょっと恥ずかしくなる。
その絵は水色のワンピースを着た私がウトウト眠りこけそうになっていた時の顔。
もうやだなー。どうせ描くならもっとまともな顔にしてくれたらいいのに。
って、そうじゃなくて。
「またさぼってたのね、落書きなんてして遊んで」
「遊んでなんていないよ。これ美術の課題」
「え、そうなの?」
「まあねー」
なんだか、嘘っぽいけど。だけど、とても上手な絵だなって思った。
彼って意外なんだけど、綺麗な文字を書くし、絵もうまい。
退屈しのぎにピアノやヴァイオリンを貸してあげたら、上手に弾きこなしていた。
そんな彼は良家の子息としての教育を一通り受けてきているように見えた。
そう思うとますます、ああいう学校に通っていることやあんなに派手な喧嘩をすること自体が不思議すぎて。



