彼女は気まずそうに顔をそらしていて。
「ちょっとだけ、覗いたらすぐに帰るから行ってみよう。今日は誰でも校内へ入っていいらしいから」
「う、うん。少しなら。でも明日香ちゃんはここで待っててもらおうよ。万が一のことがあったら大変だよ」
「行くよ、危ない場所ならなおさらついていく。音葉になにかあったら絶対嫌だもん」
明日香ちゃんはそう言ってテニスラケットを持って車を降りてきた。
「変な奴が寄ってきたらこれでぶんなぐってやる」
彼女は勇ましく言って、私の腕にぎゅっと抱き着いてくる。
「明日香ちゃん、ありがと。私もなにがあっても明日香ちゃんを守るから」
そう言って鞄の中をガサゴソ探って防犯ブザーと催涙スプレーを取り出した。
実は、以前怖い目にあってから、ばあやに念のため護身用にといつも持たされていた。
「うん、音葉。私から離れないでね」
覚悟を決めてふたりで、ギュッと抱き合っていたら、直政くんの呆れたような声がふってくる。



