玲生くんにはわからないよ。私は周りの人たちに簡単に反抗したり自分を押し通す強さなんてない。だってみんなのことが大好きだもん。


「結婚のことは玲生くんには関係ない」


自分でもびっくりするくらいに冷たい言い方。


だけどどうして私はこんなに玲生くんに対してムキになって腹が立つんだろう。


こんな嫌な言い方、本当はしたくないのに。


「ごめん……」


「……」


彼は起き上がり、そっと私に近づきそして背中に腕を回してきた。


「俺、音葉さんの幸せを壊すつもりはないよ。直政さんとのことで俺が邪魔になったらいつでも言って。出て行くから」


彼は、なぜか伏し目がちに小さな声でごめんと繰り返し私の背中をさする。
意外にもすぐに詫びてきた彼はいまどんなことを想っているんだろう。


その切ない表情を見たら、私の方こそ彼の背中をさすってあげたくなる。


だけどそうはしなかった。してはいけないような気がして。


お互いの背中に腕を伸ばしたらきっとそのまま抱き合ってしまいそうだから。


代わりに、私は静かに決意する。