だけど、夢の内容は思い出せない。


「うん、変な夢を見ていたの。でも早く起きないとね」


私はベッドから起き上がると無意識に唇に人差し指で触れていた。


あれ、どうしてだろう唇に生々しく残る感触と血のような鉄の味。


「そうですよ、お客様はもうとっくにお目覚めですよ。お嬢様がお寝坊されてたら笑われます」


「へ?誰に?」


思わず間抜けな声で質問した。


「ですから、お客様でございますよ。昨夜きた神崎家のお坊ちゃん。外人さんのような美丈夫で。今の若い方はイケメンというのでしょうね」


「あっ、ええっ、うそ、あれは夢じゃなかったの?」


「なにがでございますか?」


「そっか、ゆうべお父様と話した後すぐに停電してしまったんだっけ」


そうだった。霧が晴れるように少しずつ思い出してきた。


邸じゅう真っ暗で怖くてパニック寸前になっていたらお客様が到着してしまって。


小さなランプを持って、慌ててなんとか1階玄関に行ったんだ。