私の話に彼は再び眼を丸くする。
「あの時は、ありがとうございました。直ぐにあなたが優しい人だって事は分かりました。
あッ、綺麗に洗濯してアイロンも掛けてありますのでご心配なく」
私の手からハンカチを受け取ったけれど、やはり彼は不思議な顔をしたまんまだった。
「悪いな。全く覚えていない…」
「あはは~、じゃあやっぱり樹くんは優しい人だ」
「は…?何故だ?」
「覚えていないって事は無意識って事でしょう?
無意識に人に優しくできる人は良い人です。」
「覚えていない程に印象がないって事だ。人のイメージを勝手に決めるのは止めてくれ。
つーかまさか君……その一件で俺を好きになった訳じゃあないだろうな?」
こちらへ視線を送る樹くんに対し、目をぱちぱちさせる。
「そうですけど?」
「げっ。何で単純な脳みそなんだ。
そんなんじゃあ詐欺師に直ぐ騙されるぞ?
君って男に騙されやすいタイプだろう?」
う……。図星を突かれて黙り込んでしまった。
樹くんは呆れるようにハンドルを握りながら、はぁっと小さくため息を吐く。
初めて付き合ったのは高校生の時で同級生。でも何と、二股されていた。しかも結構仲の良い友人と。
その後に付き合ったのは、年上でバンドマンを目指している彼だった。ちっとも音楽活動をしている気配は見えなかったが、機材などにお金がかかると言われてその時していたバイト代を全部つぎ込んだ。
結果、数週間後音信不通になった。
その後も怪しい教材を売っているネットビジネスの彼。ホスト崩れのだめだめヒモ男なんつーのも居た。



