「おじいちゃんと一緒に寝ていてな?お父さんちょっと遅くなりそうだ。」

「おじいちゃんなら今日から彼女と海外旅行に行ってるよぉ」

「そういえばあの親父そんな事を言っていたな…。
じゃあタクシーで一人で帰りなさい。タクシーの運転手さんに言って、途中でコンビニに寄ってもらうんだ。
そこでお弁当を買って、明日の学校の用意をして休みなさい」

「でも…でも…」

「陽向はしっかりしているし、いい子だから分かるよな?」

チビひなたの頭を撫でる樹くんの顔はとても優しい。それは誰に見せる事もない、優しいお父さんの顔だ。

けれど、それじゃあ…そんな事を言ったチビひなたは…

きっと大好きなお父さんを困らせたくなくって、良い子になるしか出来ない。その気持ちは痛い程伝わる。

「うん…分かった。僕大丈夫だよ」

こんな小さな子が泣きそうになりながら大丈夫だという時は、絶対に大丈夫ではない。

「あの!樹くん!」

「何だ?見ての通り俺は突然の仕事が入った。今すぐ取引先の人に会いに行かなくてはいけない。
君に構っている暇はない。」

冷たく言い捨てられた。チビひなたへの態度とは大違い。それは当たり前だが、ここでめげる私ではない。

「あの、遅くなりそうなら私がチビひなたを家まで送ってて寝かしつけるよ」

「おい!チビひなたってなんだよぉ!」