「あの夜に頂いたお金です。 とてもじゃあないけれど頂けません。
お金目当てでもなかったし私が望んでした事ですし、大金です。
樹くんが一生懸命働いて稼いだお金は、あなたの大切な物の為に使って下さい。
それでは!待ち伏せをし足止めをするような真似をしてしまいごめんなさいッ。明日ラインしますね!」

ぺこりと頭を下げて、手を振りながら後ろ歩きしているとガンッと木に頭をぶつける。

不思議な顔をして手にした万札を見つめている彼が、それを見て笑った。あの日と同じ笑顔で笑ってくれたんだ――。

口をぱくぱくと動かして何かを言っていたが、それは私には聴きとれなかった。
そして笑ったまま、颯爽と横付けされていたタクシーに乗り込んでいった。


この時彼が待っていると言った人はてっきり女性の類か何かだと思っていた。 モテない訳がない彼に、女の一人や二人居たところで大した驚きはしない。

けれど彼には、誰にも言っていない隠していた秘密が一つあった。