「本当にごめんなさぁい…」
余りに責められるのでその場で泣きそうになってしまった時だった。
「大丈夫か?」
頭の上に突如降って来たのは、柔らかい低音のとても甘いキャラメルボイスだった。
口をぽかんと開けたまま上を向くと、そこにはネイビー系のスーツをさらりと着こなす、長身の美しい男性が立っていた。
思わず見とれてしまって、時間は止まる。
「あ、あ…!私なら大丈夫ですッ」
さっきまでと明らかに声色が変わった目の前の女性が、目をキラキラと輝かせ彼へ視線を向けた。
するとスーツの男性は視線を下から上にあげて薄い唇を開く。
「君に言っている訳じゃない」
「え?」
「こんなに謝っているじゃないか、可哀想に。
汚れたと言っても少し位水がかかった程度ではないか。そんなの汚れた内に入らん。
それよりも君のキーキー怒鳴る声の方が耳障りで堪らない」
そうきっぱりと、私の目の前に居る美しい女性に言い放った。 そしてスーツの胸ポケットから財布を取り出して1万円札を女性へと差し出した。「クリーニング代」と言って。
顔を真っ赤にさせた女性はふんっとそっぽを向いて、大きな足音を立ててその場から逃げるように去って行ってしまった。
ふぅっと小さなため息を落としたその男性は、私と目線を合わせるようにその場に跪いきこちらへと手を差し出した。



