【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー

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彼との出会いは初夏の始め。このオフィスビルで清掃のアルバイトを始めた頃まで遡る。

私の担当は室外ではなく、主に室内だった。

大きなカートの中に掃除に必要な道具一式。主に自在ぼうき。モップ。掃除機。洗剤雑巾などを詰め込み、担当箇所の床や壁をぴっかぴかに仕上げる。

八代台タワービルはこの一角でも1、2位を争う大きなオフィスビルで、大きく広いエントランスは解放感がありガラス張りのお洒落な造りで、周囲は人口の木々で覆われている。

駅からビルまでは、屋根付きのペデストリアンデッキで直結しており便利である。


レストランやカフェやバー。24時間便利なコンビニも完備されており、屋上にあるヘリポートは某有名ミュージシャンのミュージックビデオ等にも使われておりテレビでもよくお見掛けする。

そしてこのオフィスビルには毎日何人もの人々が行きかっており、田舎者の私にとってこんな大きなオフィスビルで働いている人は男性でも女性でも、全員洗練されて見えた。


高そうなスーツをお洒落に着こなして、流行りのバックを手に取る。

ここに訪れる人間にきちんとしていない人は滅多にいない。頭の上から足先までどこをとっても美しい人種ばかり。

そんな人々が行きかう中で仕事をしていると、青の薄汚れた作業着を着ている自分が惨めに感じる事はあるけれど、そんな事でいじけていては馬鹿らしい。

私の仕事だって立派な仕事だ。

’誰かと自分を比べる事程馬鹿らしい事はないよ’こんな時でも大好きなおばあちゃんの言葉を思い出し、今日も1日笑顔で頑張ろう。そう思った矢先の出来事であった。