樹くんそっくりな顔をして、私へ微笑む小さな天使。嘘偽りのない真っ直ぐな心に小さな愛しさが産まれてくる。

それと同時に、こんな可愛い天使を手放さなければいけなかった彼の奥さん。チビひなたのお母さん向日葵さんの事を想う。

チビひなたが寝静まった頃、一人でリビングのソファーに座る。

この家には、所々に向日葵さんの残した物が垣間見える。 花柄のアイボリーの優しい色をしたカーテンも、カントリーちっくな食器も、この家に流れる優しい雰囲気は全て向日葵さんが作り出したものだ。

そして樹くんがどんなに忙しくとも、飾ってあるお花を枯らさない事も知ってしまった。

チビひなたが安らかな寝息を立てて眠る顔を見つめる度に想う。

私はこの子の母親には、なれない。どんなに母親のような事をしても、代わりには決してなれない。この世界でチビひなたのお母さんはただ一人なのだから。

「ただいま」

「あ!おかえりなさい!全然気が付かなかった。」

いつの間にかリビングには樹くんの姿。
ネクタイを緩めて、こちらへ穏やかな笑みを落とす。
思わずドキドキしてしまう。

あれから……

あの動物園の帰りにキスをされて、この1か月小鳥遊家へ通い妻のような事をし始めたけれど
進展は一切ナシ。 当たり前っちゃー当たり前だけどこうやって家に来た時はゲストルームに泊まる。

普通の会話はするけれど、甘い雰囲気になる事は一切なかった。 ねぇ!あの日のキスは一体何?!私に好意のあるような態度を取っていたような気もするけれど、あれって勘違い?!