大丈夫。あんたはいい子よ。分かっている。突然大好きなお母さんが死んじゃって、大人にならなくっちゃいけないって思った事。

私も知っている。泣かないように自分を守る術を身に着けた子供を――。


チビひなたは散々泣いた後、けろりとしてソフトクリームを美味しそうにたいらげた。

泣き止めばいつも通り私へと可愛くない言葉をぶつけ、夕方になって動物園を出て車に乗ってから直ぐに後部座席で眠ってしまった。

仕方がないから助手席は譲ってやるよ、と言い残して。 後ろを振り向くと、口を開けてすうすうと安らかな寝息。その姿は正に天使。

私、天使の存在は信じていないけれど、この世に天使が存在するならばこんな顔をして眠っていると思うんだ。

暗くなった車内の中で樹くんが深いため息を漏らす。

「俺は駄目な父親だな。
陽向に色々な事を我慢させているのは、俺自身だ。
無意識で陽向を泣けない子供にしてしまっていたんだ」

「駄目な父親なんかじゃありません。樹くんはチビひなたを1番に想って、大切にしている。
きちんとその気持ちは伝わっていますよ。だからあんな優しい子になっているんです。
泣いたのは転んで痛かったからだけじゃあありません。私のソフトクリームがぐちゃぐちゃになってしまったからです。
生意気だけど、優しい子ですね」