起き上がった樹くんは顔を真っ赤にさせ口をパクパクと金魚のようにさせる。
「馬鹿か、君は!」
「冗談ですよぉ~ッ本気に取らないで下さい!
でも弱っているなら永瀬ひなた!いつでもこのEカップのお胸をお貸しいたします!」
今度はこちらが冗談で言ったつもりだが、樹くんはジッと私の顔を見た後
ボスッと私の胸へと顔を埋めた。 意外な行動にドキドキとしてしまったのは、自分の方だった。
「デカい…」
「思わず発情しちゃうでしょう?ベッドに行きますか?」
「君には来客用のゲストルームを使ってもらう」
「ちぇーッ。私はいつでもあの夜のような事をしたいのですがぁー!」
私の胸に顔を埋めたまま、樹くんは小さく笑う。
「君は…本当にデカいな。
心が俺よりずっとデカい。
陽向が君に懐く理由が良く分かる。 君は心が清らかで優しい。
懐がとても大きい。 ありがとう。君が居なかったら、俺はあんな嬉しそうな陽向の顔を見る事も出来なかった」
それはとても優しい口調だった。
樹くんの温もり、匂い。それを感じて、出会った頃よりもずっと彼を好きになっている自分が居る。
けれど……好きになればなる程切なくなっていく、この気持ちは何故?
写真立てには穏やかに微笑む彼の忘れられない奥さん。 その横で夜だと言うのに上を見て咲き誇る向日葵。
彼がもう誰とも恋愛をしないと決めた理由。 どんなに好きになっても、彼の中から消える事のない想いがあると知った。
切ない秋の夜だった。