君に恋した僕の話

18時。
言われた通り向町駅に向かった。
「美晴!」
彼女にかけよる。
「私、気づいてたよ。智が陰口言われてたことも。それを智が気にしていたことも」
彼女のその声は震えていた。
「きっと、智は私のためを思って距離を置いてたんだよね。ごめんね、そんな気を使わせちゃって」
「そういうつもりは、、、」
「誤魔化さなくていい。全部分かるから。私は智が今どんなに後ろ向きなこと言っても励ましてあげれるよ。私は智の味方だから。それに私をかばってくれた時、すっごくビックリしたけどすごく嬉しかった。殴ったのは良くなかったと思ってるけどかっこよかったよ。」
その一言一言の言葉が自分の心を縛り付けているものを解いてくれているように感じた。
それが解ければ解けていくほど涙が自然と込み上げてきた。
「ありがとう、ごめん、心配かけて。」
僕は彼女を優しく抱きしめてそう言った。
「智、テスト何点だった?」
「432点だけど」
「私の方が高いね、じゃあお願いごと。1回だけ智になんでもしていいっていうのは?」
「いいよ、じゃあ今か、!」
言いかけた瞬間いきなり自分の唇に柔らかく暖かい感触を感じた。
一瞬何が起きたのか理解できなかった。
しかし、すぐ状況を理解し、目を閉じる。
すごく近くからいい香りが鼻をくすぐる。
ほんの数秒が何十秒にも感じられた。
「ど、どうかな、、、」
「え、あ、えっと」
「はい!おしまい!じゃあご飯作るから!帰るよ!」
顔を赤く染める美晴。
「はーいはい」
俺は少しずつ日常を取り戻し始めた。季節は忙しなく変化していく。
この前衣替えしたばかりかと思えば今は陽炎が道路の上の灼熱を感じさせている。
期末テストが終わった。
結果は最悪だった。
まぁ1ヶ月も学校に行けなかったのだから仕方ないだろう。
そんなテストの事はもう忘れてしまおう。
なぜなら来週からは夏休みだからだ。
夏休み何をしようか。
読書、勉強、読書、、、
ってこれでは謹慎生活と何ら変わりないじゃないか。
そんな事を考えていた時父親がこんな話を持ってきた。
「おい息子ぉ!今年は海行くぞ!海!」
「急にどうしたの」
「江ノ島だ!見ろこの旅行券」
と、父さんは江ノ島行きの旅行券を見せてきた。
「どうしたのこれ」
「商店街の福引きで当てた」
本当にあれ当たるんだ。
当たること自体半分都市伝説だと思っていた。
「いつ?」
「来週末」
「りょーかい」
「だけど智くん」
急に父親が変な呼び方をしてきた。
「何その呼び方」
「実は父さん仕事が入っていけないんだ」
「マジで言ってる?」
「けど、もう新幹線のチケットも宿の予約もしてあるんだよねぇ」
この人は俺にぼっち旅にいけと言うのか。
「美晴ちゃん誘って行きなよ」
「な、な、何言ってんだよ!?」
「きっと喜ぶと思うけどなぁ、江ノ島」
「女の子と二人でしかも高校生。親として許していいのかよ!」
「まぁ智にはどうせ手を出せないでしょ。ヘタレだし」
親父はからかうように言ってきた。
というか、母さんの話では父さんはそうとうなヘタレだったらしいが、、、。
「まぁ、誘ってみろよ!俺はお前らのこと応援してるからな!」
俺はその時、棚の上にある父さんの手帳が目に入った
「ありがと、誘ってみとく。」
父さんは嘘つきだ。
手帳にはその日だけ予定が入ってなかったじゃないか。
楽しみにしていたのかもしれない。
次の日の下校中、早速美晴の事を誘ってみることにした。
「父さんが福引で旅行券当てて、江ノ島なんだけどさ、良かったら、、、一緒にどう?」
「え!?本当に?いいの?」
「少し言いにくいのですが、、、」
「?」
「父さんと行く予定が急に父さんが行けなくなったから1部屋しかとってないらしいんだけど、、、」
と言うと美晴が顔を真っ赤にした。
まずい、さすがに怒るかな。
「さ、さとしがいいなら、、、」
え?まじ?
「僕は大丈夫、、、」
お互いに恥ずかしがってどうするんだ。
まともに顔を合わせられないまま家に帰ってきた。
「た、ただいま」
「おーおかえり!息子に美晴ちゃん!」
いつも通りドアからひょこっと顔を出した父さんは僕達を見るなり、
「おぉ、どうやら息子から旅行の話をされたようだなぁ美晴ちゃん、安心してくれ!智はヘタレだから手出せねぇから!」
ちょ、は!?何言ってんだ!
「おい父さん余計なこと言うなよ!」
「はい!智がヘタレな事には薄々気づいていました!」
み、美晴?それはさすがに心が折れる。
「私を守るために謹慎処分になってしまったのは本当にごめんなさい。けど智くん、凄くかっこよかったです!ただのヘタレじゃなさそうです!」
2人してバカにしてくる。
僕、そんなにヘタレかな?
「謹慎になったのは仕方ない、もっとやり方はあっただろうし。こいつ、こう見えて何でもすぐ行動に起こすから」
「もういいから!ご飯にするよ!」
このままこの人達に話させてたら僕が耐えられない深い傷を負ってしまいそうだ。
食事の用意をして食卓に運ぶ。
「ところで、美晴ちゃん。ほんとに良いのか?」
「はい!智が大丈夫なら!」
「そうかそうか!じゃあ気をつけて行ってくるんだぞ!」
美晴と2人旅か、、、
と、思うと少し緊張してしまう自分がいる。