君に恋した僕の話

俺達は付き合っても生活にさほど変化はなかった。
いつものように学校に来て、話して、一緒に帰ってご飯を食べる。
今の当たり前はちょっと前の自分からしたら想像も出来なかっただろう。
今日も学校が終わり、二人で電車に揺られている。
「今日は何食べたい?」
「んー、ハンバーグ食べたい」
今日はガツッと食べたい気分。
一応、図書部にも食べ盛りはある。
「けど野菜も食べなきゃだから煮込みハンバーグかなぁ」
「じゃあスーパー寄って帰ろっか」
「うん!」
向日駅について、スーパーに向かって歩いていた時、、、
手先に暖かい感触。
手元をみると美春が僕の手を握っていた。
美春の方を見ると僕をただ無言で見つめていた。
握り返せってことか?
手を握り返すと彼女はニコッと笑って見せた。
正直に言おう。
めちゃくちゃ可愛い。
夕日に照らされた彼女の笑顔はいつもの数倍、輝いて見えた。
スーパーに着いてからは野菜コーナー、お肉コーナーと店内を一周して夕食の材料を買い漁る。
会計を終えるとエコバックに買ったものを入れて、肩にかけた。
スーパーから家は目と鼻の先なので数分で家に到着した。
「ただいまー」
玄関を開けての第一声は幼い頃から変わらない。
美春も僕に続いて玄関をくぐる。
「おぉ、おかえり。」
と、玄関からすぐの扉から顔を出したのは父さんだ。
「美晴ちゃんもおかえりー」
「おじゃましまーす!」
美春と父さんも最近ではすごく仲良くなったようで今では「美春ちゃんはうちの娘みたいなもんだな」を口癖のように言う。
父さんはお母さんが亡くなってから仕事が終わるとすぐに帰宅しており、帰ると大抵リビングにいる。
父さんが家にいるようになってからは3人で食卓を囲んでいる。
そして今日、僕達が付き合っていることを父さんに話すことに決めている。
料理を作り食卓に運び、いざ戦いの時。
すごく緊張する。
「おぉ、美味しそうだなぁ、いただきまーす」
「いただきます」
「いただきまーす」
父さんに続いて僕達も食べ始める。
「今日は仕事が大変だった。部長の理不尽さと言ったらなぁもう酷かったんだよ」
「職場って色々大変なんだな」
と答えると
「そうだよ、理不尽に耐えないと社会じゃやっていけないんだぞ!あのなぁ俺も若い頃、、、」
父さんの話が続く、、、
言い出すタイミングが見つからない。
「ほんっと、若い頃は考えもしなかったなぁ」
やっと父さんの話が終わった。
つかの間の沈黙。今しかない。
「あの、父さん」
「ん?改まってどうした、息子よ」
緊張しながらも言葉を絞り出す。
「実は美春と付き合っているんだ」
父さんはどんな反応をするだろう。
恐る恐る顔を上げる。
「え?あ、うん」
父さんの答えは予想外のものだった。
「反応薄っ!」
思わずツッコミをいれてしまった。
「あぁ、毎日うち来てご飯食べてるって言うからてっきりもう結構前から付き合ってるのかと思ってたよ」
「そういうことか」
確かによく考えたら毎日家にご飯作りに来る異性なんて普通に見たら恋人以外の何者でもないな。
「ところで、、、どこまで進んだんだ?」
手を繋いだ。
なんて言うのは初めて恋愛をした僕にとってはすごく恥ずかしい。
「いや、まだ、、、」
と言いかけた時
「手を繋ぎました!」
美春は堂々とそう言った。
「おい!美春!さすがにちょっと、、、」
「そうかそうか!うぶだなぁ!智、恥ずかしがる事じゃないんだぞ、隠すことないじゃないかぁ」
父さんは面白がるように笑ってきた。
「じゃあお母さんに報告しないとなぁ」
そういうと父さんは棚の上の固定電話の隣に置いてある母さんの写真を手に取る。
「智にも彼女が出来たんだってさ。母さん。俺たちが出会ったのも高校生の時だったな」
そう語る父さんの目からは涙が溢れていた。
「美晴ちゃん、智が迷惑かけるかもしれないけどよろしく頼むよ」
「むしろ私の方が迷惑かけてしまいそうです」
美晴はそう言って笑った。
「父さんは過保護だよ」
俺も父さんに向けて優しく笑いかけた。