触らないでよ!〜彼氏に振られたその日、女の子(?)に告白されました〜

--まだ帰ってなかったのか。

さっきの独り言を聞かれてないか心配になる。



それにしても「百瀬」か。
つい2週間前までは下の名前で呼んでたのに、やっぱり別れるとこんなもんか。



渡された紙の束を黙々と仕分けする。

早くパソコン作業に戻りたい。

自分に課した今日のノルマが全然終わってないから、気持ちだけ焦る。



「ねぇ、これ期限切れてるんだけど。
--これも、これも、ちゃんと確認してよ。
毎回毎回、1ヶ月以内に出してって言ってるじゃん」



ただでさえ忙しいのに。

同期だったり元彼だったりということを差し引いても口調がきつくなる。




「……この前さぁ、別れるって言ったけど、取り消していい?」




私が突き返した領収書を受け取りもせずに、早坂はそう言ってのけた。

茜ちゃんの席に座って、行儀悪く机にひじを付いて。








「……今さら、何言ってんの」



--あの一言で、どれだけ泣いたと思ってんの。


顔を見れなくて、茜ちゃんの机に領収書を叩きつける。

ちょうどそのときトイレから茜ちゃんが戻ってきた。

少し驚いた顔で私と早坂を見ている。




「今日はもういいや、疲れた。明日に回す」

「え、ミカさん帰ります?」

「うん、茜ちゃんも帰ろう」



データを保存してパソコンのシャットダウンを始める。

早坂に「失礼します」と言いながら、茜ちゃんも自席のパソコンの電源を落とした。



「それ、いらないなら自分でシュレッダーして。
私たち帰るから、フロアの電気消しといてね、じゃあお疲れ様でした」



茜ちゃんを待たずに逃げるようにフロアを出る。