「ミカさん?」



私がいつまでもグラスに口をつけないからか、澪ちゃんがカウンターから身を乗り出して心配そうに声をかける。



ーーダメだ、本当に泣きそうだ。



「……好きだったのになぁ」



呟いてみたら涙腺が崩壊した。

別れると楽しかった思い出ばかり思い出すのはどうしてなんだろう。
一気に涙が溢れてくる。

タバコを消したサラサさんが、カウンターから体を出して私の隣に座った。




ぎゅっと両手で右手を掴まれて、手の甲を撫でられる。

澪ちゃんもカウンター越しに私の頭を撫でた。



「そんな男、別れて正解よ」



いつもと同じセリフを言いながら、サラサさんが子どもをあやすような目で笑った。
澪ちゃんもうなずいている。



恥ずかしくて、でも2人の優しさが嬉しくて、私はまたここで泣いてしまう。