澪ちゃんの部屋に住むのは卒論発表までの期間限定という話だったけど、先週、帰る日の相談をしたら首を横に振られた。

つまり引っ越すまでの間、澪ちゃんの部屋にいてもいいらしい。


住んでもいないこの部屋に払い続ける家賃がもったいない気もするけど、今の澪ちゃんとの生活が快適すぎて全然苦じゃない。



どうせ引っ越すなら、今のうちに捨てるものと取っておくものを分けてしまおうか。


当初の目的である部屋の掃除を投げ出して、寝室のクローゼットから全ての洋服を取り出す。

前に澪ちゃんに見られたニットワンピースやくたびれたブラウスなど着なくなった服をまとめてゴミ袋へ入れる。



袋がいっぱいになるまで服を断捨離していたら、急に冷蔵庫の存在を思い出した。

賞味期限が切れるようなものは入っていないはずだけど、一応確認する。

うん、見事に調味料しかない。

これ、澪ちゃんの部屋に持っていこうかな。
ここにあっても使わないし。



ドレッシングの瓶をカチャカチャ鳴らしていたら、テーブルの上に置いていたスマホから着信音が響いた。



澪ちゃんかと思ったけど、かけてきた相手の名前を見て懐かしくなる。



「もしもし、あゆちゃん?」

『ミカ? 久しぶり』



電話の向こうで、高校の頃からの友人が朗らかに笑った。



『明日さ、親戚の結婚式あって、前乗りで今近くまで来てるんだけど、暇?』

「急だね」

『あは、ごめんごめん。
もし時間あるなら夕方、夜でもごはん行かない?』



急に誘われて一瞬、SARASAに行かなきゃいけないからと戸惑った。
でもすぐに思い直して承諾する。


澪ちゃんにはその後会いに行けばいいし、遅い時間に行ったほうが一緒に帰れると思った。