触らないでよ!〜彼氏に振られたその日、女の子(?)に告白されました〜

「……うん」



息を呑むのがわかった。
出入口から斜めに立って後ろを振り向くと、早坂の顔がこれ以上にないくらい引きつっていた。



「意味わかんないんだけど。だってお前、俺と付き合ってたじゃん。その前も、今まで付き合ってきた奴全員男だっただろ?」



早坂は澪ちゃんを女の人だと思っているようだった。

澪ちゃんのために否定した方がいいのだろうか。
でも澪ちゃんが女装している理由を知らないから、聞かれても答えられない。



「なに、実は女の方が良かったってやつ? だから触られるのも嫌がってたのか?」




今まで、こういう早坂は見たことがない。
小さなケンカをしたことは何度かあるけど、こんな一方的で人の話を聞かない態度は一度もなかった。

黙りこくっていたら業を煮やしたのか、睨みつけるような目で見下ろされた。



「……ふざけんなよ、だったら最初から言えよ!」



公衆の面前で怒鳴られて体がすくむ。
一瞬、周りの音が消えた。
視線が私たちに集中する。

目の前の早坂は、今まで見たことのない顔をしていた。軽蔑するような、冷たい目だった。