23時になって、サラサさんとの約束通りに澪ちゃんが仕事を終えた。
「着替えてくる」と言って、お店の2階にある休憩所のようなところに引っ込んで行く。


ボックス席のお客さんもほとんどいなくなって、カウンターにはサラサさんと私が残った。



「澪ちゃんの機嫌はどう?」



瓶の炭酸水をグラスに注ぎながら、サラサさんが尋ねる。



「……わかんない」



貞操の危機ではある。

澪ちゃんが降りてくるのを、判決を聞く人みたいに緊張しながら待つ。



「ふぅん? ミカは、澪ちゃんだったら触られても大丈夫なのね」



タバコに火をつけながらサラサさんが微笑む。

それは茶化しているというより、安心したようなニュアンスだった。