「澪ちゃん、さすがに作りすぎよぉ。
もう、ムダにしたら給料から引くからねー」

「ーーサラサさん、」



短時間にシェイカーを振りすぎて疲れたのか、腕をもみながら澪ちゃんが低い声で言った。



「今日早めに上がってもいいですか」

「いいわよ。日曜だし、そんなにお客さん来ないし」

「じゃあ23時になったら帰る。あと作ったやつは奥に持ってって。自腹切るから」



ポツポツと話す澪ちゃんが怖い。

さっき怒鳴られたときとは全く違うテンションの差についていけない。



「はーい。じゃ、ミカ、頑張ってね!」

「なにを!?」



銀色のプレートにいくつもカクテルを乗せてサラサさんが去っていく。

この状態の澪ちゃんのまま2人きりにしないでほしい。


ボックス席からの歓声が聞こえる。
本当に澪ちゃんの自腹で振る舞ったのだろうか。



「ミカさん、」

「はい……」

「あと2時間、何して遊ぶ?」


ーーいや、遊ばないで仕事して……。

キレイな顔がこっちを見ている。
目が笑っていない。

初めて知った。

澪ちゃんは怒らせたら怖い。