「…はあ、やっぱり好きだなぁ…」

瞼がふるりと降りた君の顔を見ながら、僕はそう呟いた。

僕、実は同性に恋をしているのである。

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最初はただのクラスメイトだったのだ。
その時は、同性愛とかあんまりよく分かってなかったし、なんなら僕はゲイじゃないし。

でも、どうしてだろう。惹かれてしまったんだ。
窓側の席の一番後ろの隅っこで、ただ静かに分厚い本を読んでいるあの人が。

長いまつ毛の影を落としながらページをめくるその姿になぜだか見とれちゃって、すごく綺麗で、素敵で。

ストン、と落ちたストレートの、サラサラな髪がそよりとなびいて。多分僕、その時点で恋をしちゃってたんだと思う。

「ね、ねえ、君の名前、なんていうの?!」

それが、僕の恋のきっかけ。




たまにこちらを覗く、つり目がちな黒い瞳。

「…僕の、名前ですか?」
社交的な笑みを浮かべながら、彼はそう言った。

「う、うん。…名前、なんて言うのかなって思って。」

「あ、でも僕、自己紹介がまだだったよね?!え、っと、僕の名前は…」

柊木優(ひいらぎゆう)さん、でしたよね?」

「ぇ、あ、うん!僕の名前、知ってたんだ。」

「ええ、それはもちろん!いつも教室の真ん中で、他の人たちとだべっているのをよく見かけますから。」

「あっははは…それは…うん。」

「ところで、僕の名前ですか。僕の名前は藍浦涼介(あいうらりょうすけ)と申します。よろしくお願いしますね。」


名前まで綺麗だ、なんて思った僕の心情など知らずに、君は同い年とは思えないような大人びた顔をして笑って見せた。


そう、これが僕と君の、はじめましてのとき。

どこまでも素敵で綺麗な君との、初めての会話だった。